中国からの輸出を検討する際、「工場が正式な増値税発票(インボイス)を出してくれない」「輸出退税(増値税還付)の手続きが煩雑で資金繰りが苦しい」「外貨の回収がスムーズにいかない」――こうした悩みを抱えるバイヤーや輸出業者は少なくありません。

こうした問題を解消するために中国政府が設けたのが、「1039市場採購貿易方式」です。弊社が実際の案件を通じて深く調査した内容を踏まえ、その仕組みから実務上の注意点まで、わかりやすく解説します。


1. 1039貿易モデルとは

1-1. 基本定義

1039市場採購貿易方式とは、2014年に中国海関総署が導入した特殊な海関監管方式です。正式名称は「市場採購貿易方式(海関監管コード:1039)」で、義烏(イーウー)の小商品市場をルーツに持ち、現在は全国39カ所の認定市場集積区に拡大しています。

簡単に言うと、**「発票なしの小ロット商品を、合法的に輸出・外貨回収できる仕組み」**です。

1-2. 生まれた背景

義烏をはじめとする中国の小商品市場では、「多品種・小ロット・多バッチ」という取引形態が一般的です。こうした市場では以下の問題が長年存在していました。

  • 小規模問屋は増値税の一般納税人資格を持たないことが多く、正規の発票が出ない
  • 発票がなければ通常の一般貿易(0110)では輸出退税申請ができず、税負担が増大
  • 個人口座での外貨回収が横行し、銀行口座凍結リスクが絶えない

これらを合法的に解決するため、国が1039という政策を設け、中小・零細業者の輸出を「陽光化(オープン化)」する道を開いたのです。

1-3. 主要な特徴

特徴内容
発票不要増値税専用発票がなくても合法的に輸出申告が可能
増値税:免徴不退輸出時の増値税は免除(還付は受けない)
低税負担個体戸の所得税として核定征収5%が適用可能。実質税負担は輸出額の0.5%以内
多主体収汇「輸出者=外貨回収者」の原則を破り、複数主体での外貨受取が可能
人民元決済対応外貨だけでなく人民元での決済も許可
簡便な通関多品種の商品を大分類で申告でき、通関時間を大幅短縮
単票上限1報関単あたり15万USD以下

1-4. 対象となる主な市場集積区(39カ所より抜粋)

地域主な試点市場
浙江省義烏市市場集積区(最大・最も一般的)
江蘇省常熟服装城
広東省広州花都皮革市場、東莞大朗、深圳華南城、中山灯博中心
山東省臨沂商城、青島即墨国際商貿城
重慶市大足龍水五金市場

2. 一般貿易(0110)との違い

2-1. 制度上の違い

比較項目一般貿易(0110)1039モデル
取引主体法人(中国貿易会社等)個体工商戸(個人事業主)
発票必須不要
増値税仕入時13%負担→輸出退税で還付免徴不退(0%)
所得税企業所得税25%(優遇時5%)個人事業所得税(核定征収5%)
総合税負担利益の25%(還付後の実質負担)輸出額の0.5%以内
通関申告品目ごとに詳細申告大分類での簡略申告が可能
外貨収受「輸出者=収受者」が原則多主体収汇が可能
退税資金の拘束1〜3ヶ月の資金拘束が発生なし
採購場所の制限なし認定市場集積区内のみ
年間売上上限なし500万元以下(核定征収適用条件)

2-2. 数字で見るコスト比較

弊社が実際に扱ったガラス製鍋蓋の案件を例に試算します(退税率0%の品目)。

前提:工場仕入価格100元(発票なし)、日本顧客への売価130元

一般貿易の場合(退税率0%品目)

項目金額
売上130元
仕入(税込)△110元
増値税還付0元(退税率0%のため還付なし)
仕入増値税コスト△12.65元(コストとして残る)
企業所得税△1元
実質手取り6.35元

1039モデルの場合

項目金額
売上130元
仕入(発票なし・税抜き)△100元
増値税0元(免徴不退)
所得税△0.65元(130×0.5%以内)
実質手取り29.35元

→ ガラス製品(退税率0%)では、1039モデルの実質手取りは一般貿易の約4.6倍

退税率0%の品目(ガラス製品・一部の陶磁器等)や、そもそも発票を取得できない小規模問屋からの仕入れでは、1039モデルが圧倒的に有利です。

2-3. キャッシュフローへの影響

一般貿易では輸出退税(増値税還付)の入金まで1〜3ヶ月かかります。月間仕入100万元の規模であれば、常時12〜38万元が「還付待ち」で資金拘束される計算です。1039モデルではこの問題が根本的に解消されます。

2-4. どちらを選ぶべきか

ケース推奨モデル
発票あり・退税率13%の大口仕入れ一般貿易(退税メリットが大)
発票なし・退税率0%品目1039モデル一択
小ロット・多品種・スポット取引1039モデルが有利
年間仕入500万元超の規模一般貿易(上限制限なし)

3. 注意すべきポイント(税務処理含む)

3-1. 試点市場集積区内での実態登記が必須

1039の適用には、認定市場集積区内での個体工商戸(個体戸)の登記が必要です。中華人民共和国海関総署2019年第221号公告に基づく主な条件は以下の通りです。

  • 試点市場集積区内に工商登記した個体戸であること
  • 取扱商品が試点地内で採購されたものであること
  • 試点地内での実地経営があること
  • 売買の実態が追跡可能であること
  • 年間売上500万元以下であること

⚠️ 要注意:名目だけの住所登記(いわゆる「挂靠」)は近年厳しく摘発されています。2023年には義烏・東莞で大規模な清査整顿(実態調査・撤退命令)が実施されており、虚偽登記は将来の税務リスクに直結します。

3-2. 年間500万元の上限管理

核定征収(簡易課税)が適用されるのは年間売上500万元以下の個体戸のみです。超過した場合は一般納税人として扱われ、複式簿記・月次申告が必要になります。取引規模が拡大する場合は、実態を伴った形での個体戸の複数設立による分散も選択肢のひとつです。

3-3. 2025年10月以降の規制強化への対応

2025年10月1日施行の国家税務総局第17号公告により、代理出口企業は実際の委託方(個体戸)の情報と輸出金額を報関単に同時申告することが義務化されました。これにより「买单出口」(名義貸し出口)は事実上の終焉を迎えており、1039モデルを活用する場合は適切な委託方情報の申告が絶対条件です。

3-4. 通関手続き:双抬頭報関の仕組み

1039モデルでは自主報関資格がなく、試点地が指定する代理報関会社への委託が必須です。報関単には以下のように2つの名義が記載されます。

  • 境内発货人(国内発送者):代理報関会社
  • 生産販売単位:個体戸

外貨の入金も代理報関会社経由が一般的ですが、一部の試点地(常熟など)では個体戸の対公口座への直接入金も可能です。

3-5. 取り扱い不可品目

以下の商品は1039モデルの対象外のため注意が必要です。

  • 国家が禁止・制限する輸出品
  • 許可証・クォータ管理品(農産品の一部等)
  • 大型セット設備
  • 危険品・貴金属原料

3-6. 税務計算の実例

年間売上500万元の個体戸を想定した税務計算です。

項目計算金額
増値税免徴不退0元
課税所得額500万 × 5%(核定所得率)25万元
所得税(基本)25万 × 20% − 1.05万3.95万元
優遇措置(減半征収)3.95万 ÷ 21.975万元
実効税率約0.4%

年間売上500万元でも、納税額は約2万元以下という極めて低い税負担が実現します。


まとめ

項目ポイント
向いている取引発票なし仕入れ・退税率0%品目・小ロット多品種・キャッシュフロー重視
向いていない取引発票ありの大口仕入れ(退税率13%品目)・年間500万元超の規模
最大のメリット税負担0.5%以内・発票不要・外貨回収の自由度
最大の注意点試点区内での実態ある登記・2025年規制強化への対応
上海法人との使い分け有票仕入れは一般貿易、無票仕入れ・退税率0%品目は1039で使い分けが最適

1039モデルは、中国の小商品輸出の「陽光化(合法化)」を推進する国の政策であり、適切に活用すればコスト削減・キャッシュフロー改善・コンプライアンス強化を同時に実現できる強力なツールです。

弊社では、義烏等への個体戸設立サポートから、一般貿易との使い分け設計、送金・外貨管理の最適化まで、日中間の貿易実務を一貫してサポートしています。ご相談はお気軽にどうぞ。

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